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一歩踏み出して分かった歯科医院の現実
奥歯が欠けてから、もうすぐ一週間。痛みはないけれど、舌で触るたびに感じる鋭い感触が、私の心に重くのしかかっていました。歯医者が怖い。あの独特の匂い、キーンという機械音、何をされるか分からない不安。そんな恐怖心が、私を歯科医院から遠ざけていました。しかし、このままではいけないという焦りも日に日に大きくなり、私はついに観念して、近所の歯科医院に電話をかけました。電話口の受付の方の優しい声に少しだけ安心し、翌日の予約を取り付けました。当日、心臓をバクバクさせながら待合室のソファに座り、名前を呼ばれた時は、まるで断頭台へ向かうような気分でした。しかし、診察室に入ると、歯科衛生士さんがにこやかに迎えてくれ、問診票をもとに丁寧に話を聞いてくれました。私の恐怖心を察してくれたのか、「怖いですよね。大丈夫ですよ、今日はまずお口の中を見せていただくだけですからね」と声をかけてくれたのです。その一言で、固くこわばっていた肩の力が少し抜けました。診察台に座り、先生が口の中をチェックした後、大きなモニターに私の歯の画像が映し出されました。そこには、自分が想像していたよりもはっきりと、そして痛々しく欠けた歯が映っていました。先生は「ああ、これは気になりますよね。でも、すぐに来てくださって良かった。まだ神経には達していなさそうですよ」と、穏やかな口調で説明してくれました。レントゲンを撮り、治療計画を立て、費用の概算まで分かりやすく教えてもらうと、漠然とした恐怖は、具体的な「治すための道筋」へと変わり、不思議と心が軽くなっていきました。一歩踏み出すまではあれほど怖かったのに、いざ来てみれば、専門家が私の問題を解決するために力を貸してくれる、とても心強い場所でした。この経験から学んだのは、恐怖の正体は「知らないこと」だということです。もし今、同じように悩んでいる人がいるなら、伝えたいです。その一歩は、あなたが思うよりずっと怖くない、と。