一般的に虫歯や歯周病は口の中だけの問題だと思われがちですが、実際には全身の健康に深く関わっており、特にリンパ系への影響は無視できません。歯の根の先に膿が溜まる根尖性歯周炎や、歯周ポケットが深くなる重度の歯周病は、歯性感染症と呼ばれます。これらの状態は、口の中に細菌が繁殖するための温床を作り出します。私たちの体にはリンパ系という防御網が張り巡らされており、リンパ節はその関所のような役割を果たしています。歯性感染症によって増殖した細菌や、それが産生する毒素がリンパ管に侵入すると、最も近い顎下リンパ節や頸部リンパ節がこれを食い止めようと反応します。この防御反応こそが、リンパ節の腫れや痛みの正体なのです。つまり、リンパが痛むのは、体が細菌の侵攻を必死に防いでいる証拠と言えます。しかし、体の抵抗力が落ちていたり、細菌の毒性が非常に強かったりすると、リンパ節の防御機能が突破されてしまうことがあります。そうなると、細菌はリンパの流れに乗ってさらに遠くのリンパ節へ、あるいは血流に入り込んで全身へと拡散してしまう危険性があります。これは菌血症や敗血症といった重篤な状態につながる可能性があり、決して軽視できません。このように、一本の歯の問題がリンパ系を通じて全身の脅威となり得るのです。リンパの痛みは、口の中のトラブルが体全体に影響を及ぼし始めているサインと捉え、速やかに原因を特定し、治療を開始することが極めて重要です。