奥歯が欠けるのは偶然ではない理由とは
食事中にガリッと音がして、口の中に硬い欠片が転がった。鏡で見ると、自分では見えにくい奥歯の一部がなくなっている。多くの人が経験するこのアクシデントは、単なる不運や偶然ではありません。実は、奥歯には欠けてしまうだけの明確な理由が潜んでいるのです。まず最大の理由として、奥歯には食事の際に非常に強い力がかかるという事実があります。人間がものを噛む力は、自分の体重に匹敵するとも言われ、その負荷の大部分を受け止めているのが、臼のように頑丈な形をした奥歯です。この日々の咀嚼による圧力の蓄積が、歯の表面に微細な亀裂(マイクロクラック)を生じさせ、ある日突然、限界を超えてパキッと欠けてしまうのです。特に、過去に治療した金属の詰め物がある歯は注意が必要です。金属と天然の歯では、熱による膨張率や硬さが異なるため、その境界面に長年応力がかかり続け、健康に見える歯質の部分が欠け落ちることが少なくありません。また、目に見えない原因として虫歯の存在も挙げられます。奥歯は歯ブラシが届きにくく、磨き残しが多いため虫歯になりやすい場所です。初期の虫歯は痛みもなく、歯の内部で静かに進行します。見た目は何ともなくても、中がスカスカになっていれば、少しの力で簡単に崩れ落ちてしまうのです。さらに現代人に多いのが、睡眠中の歯ぎしりや日中の食いしばりです。無意識のうちに行われるこれらの癖は、食事の時とは比べ物にならないほどの強力な力で歯をすり減らし、破壊します。奥歯が欠けたという事実は、あなたの口の中で何らかの問題が起きているという明確なサインです。それを偶然として片付けず、なぜ欠けたのかという根本原因に目を向け、歯科医院で適切な診断を受けることが、他の歯を守るための第一歩となるのです。