「そのうち治るだろう」「病院に行くのが面倒だ」。片側の喉と歯の痛みを、そんな理由で我慢して放置してしまうと、後で取り返しのつかない事態を招く可能性があります。その痛みは、体が発している重要な危険信号であり、無視することは様々なリスクを伴います。もし、痛みの原因が親知らずの炎症(智歯周囲炎)や重度の歯周病だった場合、放置すれば細菌の感染はどんどん周囲の組織へと広がっていきます。顎の骨の中にまで炎症が及び、骨を溶かしてしまう「顎骨骨髄炎」や、細菌が顎の下や首の筋肉の隙間に入り込み、顔や首がパンパンに腫れ上がる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」といった、重篤な状態に陥ることがあります。蜂窩織炎は、最悪の場合、気道を圧迫して呼吸困難を引き起こしたり、細菌が血液に乗って全身に回り、敗血症という命に関わる状態になったりする可能性すらあるのです。また、原因が扁桃炎だった場合も同様です。炎症が扁桃の周囲にまで広がって膿の塊を作る「扁桃周囲膿瘍」になると、口が開けられなくなり、食事も摂れなくなります。この場合、入院して膿を切開して排出する処置が必要となります。さらに、見過ごしてはならないのが、悪性腫瘍(がん)の可能性です。頻度は非常に稀ですが、上咽頭がんや扁桃がん、舌がんなどが、初期症状として片側の喉の違和感や歯の痛みとして現れることもあります。特に、痛みが何週間も続く、しこりがある、体重が減少してきた、といった場合は注意が必要です。たかが痛みと侮らず、早期に原因を特定し、適切な治療を受けること。それが、自らの健康と、時には命を守るために最も重要なことなのです。