保険適用で作られた差し歯は、費用を抑えられる一方で、その「寿命」は比較的短いと言われています。一般的に、硬質レジン前装冠や銀歯といった保険の差し歯の平均寿命は、およそ5年から7年程度とされています。もちろん、これはあくまで目安であり、日々のケアや噛み合わせの状態によって前後しますが、自費のセラミックなどが10年、15年と持つ可能性があるのに比べると、やはり短命であることは否めません。なぜ、保険の差し歯の寿命は短いのでしょうか。その主な理由は、「素材の劣化」と「適合精度の限界」にあります。前歯に使われるプラスチック(レジン)は、水分を吸収して経年的に黄ばんでいく「変色」や、食事による「摩耗」が避けられません。奥歯の銀歯は、それ自体は丈夫ですが、歯と接着しているセメントが時間と共に唾液で溶け出し、できた隙間から「二次虫歯」になるリスクが高いのです。では、寿命が近づいた差し歯は、どのようなサインを発するのでしょうか。これらのSOSを見逃さないことが、手遅れになるのを防ぐ鍵です。●変色・黄ばみ:前歯の差し歯が、隣の歯と比べて明らかに黄色っぽくなってきた。●表面の摩耗:差し歯の表面がすり減って、形が変わってきた。●歯茎の黒ずみ(ブラックマージン):差し歯と歯茎の境目が黒い線のように見える。●歯茎が下がる:差し歯が以前より長く見えるようになり、根元に段差を感じる。●口臭や不快な味:差し歯の周りから、嫌な臭いや味がする。●ぐらつき・脱離:指で触ると少し動く、あるいは食事中にポロっと外れた。これらのサインは、差し歯そのものの寿命だけでなく、それを支えている土台や、ご自身の歯の根が危険な状態にあることを示しています。「まだ使えるから」と放置すれば、内部で虫歯や歯周病が静かに進行し、気づいた時には歯の根ごと抜かなければならない、という最悪の事態にもなりかねません。どんな小さな変化でも、気づいた時点ですぐに歯科医院に相談することが何よりも重要です。