最近では、ドラッグストアやインターネットなどで、手軽に購入できる市販のマウスピースを見かけることがあります。歯ぎしり対策やいびき防止などを謳った製品が多いですが、顎関節症の治療を目的としてこれらの市販マウスピースを使用しても良いのでしょうか。結論から言うと、顎関節症の治療には、歯科医院で精密に作製されたオーダーメイドのマウスピースを使用することが強く推奨され、市販のマウスピースの使用は避けるべきです。では、市販のマウスピースと歯科医院で作製するマウスピースには、どのような違いがあるのでしょうか。最も大きな違いは、「適合性」と「目的」です。歯科医院で作製するマウスピース(スプリント)は、まず歯科医師が患者さんの口腔内を詳細に診査し、顎関節症の原因やタイプを診断した上で、個々の歯型を採って精密に作製されます。そして、装着後も定期的に噛み合わせの調整を行い、顎関節や筋肉にとって最適な状態になるように微調整を繰り返します。これにより、顎関節への負担を軽減し、筋肉の緊張を和らげ、噛み合わせを安定させるという治療効果が期待できるのです。一方、市販のマウスピースは、既製品であるか、あるいはお湯で温めて自分で歯型を合わせるタイプがほとんどです。これらは、個々の顎の形や噛み合わせに完全に適合することは難しく、不適切な適合状態のマウスピースを使用すると、かえって特定の歯に過度な力がかかったり、顎関節に不自然な力が加わったりして、顎関節症の症状を悪化させてしまう危険性があります。また、市販のマウスピースの多くは、単に上下の歯が直接当たるのを防ぐことを目的としていたり、下顎を前方に誘導していびきを軽減することを目的としていたりと、顎関節症の治療を主眼に置いたものではありません。顎関節症の原因やタイプは人それぞれ異なり、それに応じた適切なマウスピースの設計と調整が必要です。不適切なマウスピースの使用は、顎関節のさらなるズレや筋肉の異常な緊張を引き起こし、治療を困難にしてしまうことにもなりかねません。さらに、歯科医院で作製するマウスピースは、耐久性のある医療用の樹脂材料が用いられますが、市販のマウスピースの中には、材質が不明瞭であったり、耐久性が低かったりするものも存在します。