食事中に「ガリッ!」と頬の内側を噛んでしまった時、最初はただの切り傷や擦り傷に過ぎません。しかし、なぜその小さな傷が、数日後には白い膜で覆われた、あの耐え難い痛みを伴う「口内炎」へと進化してしまうのでしょうか。その背景には、私たちの口の中で繰り広げられる、細菌と免疫システムの複雑な戦いがあります。私たちの口の中には、良い菌も悪い菌も含め、数百種類以上、数百億個もの常在細菌が暮らしています。健康な状態では、これらの細菌はバランスを保っていますが、ひとたび口の中を噛んで傷ができてしまうと、そのバランスが崩れます。傷口は、細菌にとって格好の侵入口となるのです。傷から組織内に侵入した細菌は、そこで増殖を始めます。すると、私たちの体はこれを「異物」とみなし、免疫システムが作動します。白血球などの免疫細胞が傷口に集まり、細菌と戦い始めるのです。この戦いの過程で、炎症を引き起こす様々な化学物質が放出されます。この「炎症」こそが、痛みや赤み、腫れといった症状の正体です。そして、戦いが激しくなると、戦いで死んだ細菌や白血球、破壊された粘膜の細胞などが、傷口の表面に白い膜のようなものを形成します。これが、典型的な「アフタ性口内炎」の姿です。つまり、噛んだ傷が口内炎になるのは、傷そのものが原因というよりは、傷に細菌が感染し、それに対して体の免疫システムが反応した結果、炎症が起きるというメカニズムによるものなのです。だからこそ、噛んでしまった直後に口をゆすいで清潔に保つことが、口内炎への進化を防ぐ上で非常に重要になるわけです。