顎関節症の治療法として有効とされるマウスピース(スプリント)ですが、稀に「マウスピースを使い始めてから症状が悪化した」と感じる方がいらっしゃるかもしれません。基本的には、歯科医師の適切な診断と指示のもと、精密に作製・調整されたマウスピースを使用していれば、症状が悪化することは考えにくいです。しかし、いくつかのケースでは、マウスピースの使用が逆効果となり、症状を悪化させてしまう可能性も否定できません。まず、最も大きな原因として考えられるのが「不適合なマウスピースの使用」です。市販されているマウスピースや、歯科医院で作製したものであっても、調整が不十分であったり、長期間使用しているうちに摩耗や変形が生じたりして、現在の噛み合わせや顎関節の状態に合わなくなっている場合があります。適合の悪いマウスピースを使用すると、特定の歯に過度な力がかかったり、顎関節に不自然な力が加わったりして、かえって痛みや開口障害が悪化することがあります。次に、「マウスピースの種類が症状に合っていない」場合です。顎関節症には様々なタイプがあり、それぞれに適したマウスピースの種類があります。例えば、関節円板がズレている場合に用いるリポジショニングスプリントを、そうでないタイプの顎関節症に使用すると、噛み合わせを不必要に変化させてしまう可能性があります。また、「誤った使用方法」も症状悪化の原因となり得ます。歯科医師から指示された装着時間や期間を守らなかったり、自己判断で調整したりすると、期待した効果が得られないばかりか、かえって顎関節に負担をかけてしまうことがあります。さらに、マウスピースを装着し始めた初期には、一時的に違和感や軽い痛みを感じることがありますが、これは体が新しい状態に適応しようとしている過程で起こるもので、通常は数日で軽減します。しかし、この初期の不快感を「悪化した」と捉えてしまう方もいるかもしれません。もし、マウスピースを使用し始めてから明らかに症状が悪化した、あるいは強い痛みや新たな症状が出現した場合は、すぐにマウスピースの使用を中止し、速やかに作製してもらった歯科医院に連絡を取り、歯科医師の診察を受けてください。自己判断で使い続けることは非常に危険です。