重度の虫歯や歯周病が原因?放散痛の恐ろしさ
片側の歯がひどく痛むだけでなく、同じ側の喉やこめかみ、耳の奥まで痛みが広がっている。このような場合、痛みの震源地は一本の「重度の虫歯」や「進行した歯周病」である可能性が考えられます。これは「放散痛」と呼ばれる現象で、痛みの原因となっている場所とは違う部分が痛く感じることを指します。特に、歯の神経(歯髄)にまで虫歯が達してしまった「歯髄炎」や、歯の根の先に膿の袋ができてしまった「根尖性歯周炎」は、非常に強い痛みを引き起こします。この強烈な痛みの信号が、一本の太い神経(三叉神経)を伝って脳に送られる過程で、同じ神経が支配している他の領域、つまり顎や頬、こめかみ、そして喉のあたりにまで痛みが広がっているかのように、脳が錯覚してしまうのです。そのため、患者さん自身は「喉が痛い」と感じていても、実際の原因は歯にある、ということが起こり得ます。特に、下の奥歯に問題がある場合、その痛みは喉や耳の痛みとして感じられやすい傾向があります。また、歯周病が重度に進行し、歯を支える顎の骨にまで炎症が及んだ場合も、同様に鈍く広範囲な痛みを引き起こすことがあります。もし、特定の歯に強い痛みがある、歯茎が腫れている、噛むと激痛が走る、過去に治療した歯がうずく、といった自覚症状があるならば、その放散痛が喉にまで及んでいる可能性を疑うべきです。この場合、いくら喉のケアをしても痛みは改善しません。痛みの根本原因である歯の治療を行うことが唯一の解決策です。速やかに歯科医院を受診し、レントゲン撮影などで正確な診断を受けることが何よりも大切です。